ESGが企業や投資家にもたらす価値と、SDGsへの影響

ESGが企業や投資家にもたらす価値と、SDGsへの影響

2020年に日本で行われた意識調査では、8割近くの個人投資家が企業のESGへの取り組みを投資の判断材料にすると答えています。

ESG投資は拡大を続けており、その世界規模は2018年時点で約30兆米ドル、ブルームバーグの試算では2025年までに53兆米ドルにも達すると予想されています。

フィナンシャル・タイムズによれば、過去10年間で、多数のESGファンドが非ESGファンドの投資成績を上回りました。

ESGとは

ESGとは、環境(Environmental)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、持続可能な社会の実現に向けて民間企業が取り組むべき課題を定めたものです。

国連の定義によれば、「環境」はメタンガスやプラスチック、「社会」は人権や労働基準、「ガバナンス」は取締役の任命や汚職といった問題と関連しています。

ESGの達成度は民間の評価機関によりスコアリングされ、そのスコアに基づく投資は「ESG投資」と呼ばれます。

SDGsが国や社会全体の目標である一方、ESGは民間企業が影響を及ぼしうる問題に焦点が当てられており、課題設定は限定的ではあるものの、その社会への影響力は大きく、SDGsの実現には企業のESGへの取り組みが必要不可欠です。

ESGの成り立ち

ESGの概念が世界的に認知され始めたのは、2006年のことです。国連が、機関投資家に向けたイニシアチブ「責任投資原則(PRI)」を発表し、持続可能な社会の実現にはESGに基づく「責任投資」が必要であり、責任投資には経済的リターンが伴うことを論じました。

奇しくも1年後の2007年に起きたリーマンショックをきっかけに、企業のガバナンスが重要視されるようになり、連動する形でESG投資への関心が高まりました。

日本でESG投資が広まるきっかけとなったのは、2015年、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことです。日本最大の機関投資家であるGPIFがESG投資への参加を表明したことで、日本におけるESG投資の機運が一気に高まることになります。

2021年には、菅首相が2030年までの46%の温室効果ガス削減を誓約したことも社会の流れを反映していると言えるでしょう。

ESG投資の価値

2020年、世界中でコロナウイルスが流行するなか、19のESGファンドがS&P500を投資成績で上回りました。これはESG投資がいかにリスクマネジメントとして機能するか、また変動する市場で有効かを示す事例です。

モーニングスターは、長期的なESGリスクとして以下の例を挙げています。

  • ガバナンス:長期的な投資家の利益よりも短期的な収益を優先したことによる粉飾決算。
  • 環境:二酸化炭素排出量に伴う課税といった規制リスク。
  • 社会:従業員を適切に扱わなかったことによる機会損失。
ESG投資家のなかには、経済的リターンよりも社会的影響を優先する考えもあります。

これは若い世代の投資家に多くみられる傾向であり、自分たちの老後や子どもたちの世代のために、より良い労働環境や持続可能な社会を築きたい、という純粋な理念によるものです。2017年のモルガン・スタンレーの調査では、ミレニアル世代の86%がサステナブル投資に関心があると答えています。

さらに、最近ではこうした社会や環境への貢献と経済的リターンを両立させた「インパクト投資」という概念も注目されています。

インパクト投資とは、より良い社会や環境の実現を目指す事業への投資ですが、チャリティや寄付とは違い、経済的リターンにも妥協しません。社会や環境への影響(インパクト)と経済的リターンの両方をKPI(目標値)として設定し、厳密に投資パフォーマンスの計測を行います。

たとえば農業を例に挙げると、環境型農業への投資により環境負荷を減らし、雇用を創出し、食料自給率を高めつつ、生産性向上により利益を高める、といったものです。

こうした動きが大きくなるにつれ、ESGを軸とした市場価値はますます高まっていくことになり、ESGに取り組む企業や投資家、そして社会や環境にとっての好循環を生み出す力になるでしょう。

ESG投資の課題

まず、ESGを評価するための統一された基準が存在しないことです。

ESGのスコアリングは民間の評価機関により行われますが、GISR(グローバルサステナビリティ評価イニシアチブ)によれば、2018年時点で、ESGの評価方法は253種類、評価機関は132機関にのぼっています。

たとえば、MSCIは企業のESGスコア算定にあたり10のテーマと37のファクターを検討します。FTSEラッセルは14のテーマ、S&Pは23の基準といった具合です。

こうした評価方法の違いから『ある評価機関によるESGスコアは高いが、別の評価機関からのスコアは低いということも起こりえる』と、フィナンシャル・タイムズは指摘します。

このように評価機関が乱立している状況が、企業のESGへの取り組みの障害になっている側面もあります。複数の評価機関のために異なるフレームワークに基づくデータを用意し、スコア改善のために多額のコンサルタント料を支払うなど、「ESG疲れ」とも呼ぶべき事態に陥りかねません。

ESG投資の今後

米国証券取引委員会(SEC)は、2020年、ESGの情報開示に関する標準フレームワークの策定に乗り出しました。日本でも、2021年5月、金融庁がESG評価機関に対して、手法や根拠の説明を求める報告書を発表しました。

また、ESG評価におけるAIの活用も見られます。たとえば、自然言語処理(NLP)によってインターネット上から企業のESGに関連するであろう情報を収集し、分類アルゴリズムにより関連分野の紐づけを行い、機械学習を活用してスコアの算出を行うというものです。

このようなAIシステムが機能すれば、企業は評価機関のためにデータの収集や開示作業に奔走する必要はなくなり、評価機関にとってもアナリストにかかる膨大な人件費を抑えることができます。

ESG投資の潮流に乗り遅れまいと、ESGへの取り組みを強める企業が増えることは、ESG投資の価値向上という観点では望ましいことです。一方で、ESGの本質を理解せず、目先の利益を追求した取り組みに終始すれば、長期的な投資家の支持を得ることは難しく、場合によっては「グリーンウォッシング」、あるいはそれに類する状態に陥るおそれもあります。

国連貿易開発会議(UNCTAD)の推計と現在の投資状況から、SDGsの達成には年間2.5兆ドルの投資が不足していると見られます。これは、冒頭で述べたESG投資の世界規模(30兆ドル~)からすれば、十分に現実的な数字です。

真の意味での企業価値の向上のためには、企業がそれぞれ抱える社会的・環境的リスクに真摯に向き合い、その取り組みをESGの枠組みを通じて投資家や社会に積極的に発信していくことが重要です。それにより市場全体、さらには社会全体に正の連鎖が生まれ、SDGs、持続可能な社会の実現に向かう大きな原動力となるでしょう。
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