AIで加速するMaterial Discovery (材料探索)
AI2022-06-17
材料探索は、いくつかの方法で経済の持続可能性を高める可能性のある研究分野です。例えば、既存の製品や工業プロセスの効率を向上させるだけでなく、これまで不可能だった新しいアプリケーションや技術を可能にします。また、材料探索は人間が手作業で時間をかけて試行錯誤することが多い研究分野です。AIを活用し、多くの作業を自動化することで、この分野に大きく貢献することができます。ただ、AIがエンド・ツー・エンドの探索パイプラインを完全に代替するとは考えていません。なぜなら、探索パイプラインの開発を指導し、目標を設定し、ある開発の実世界での影響を理解するには、依然として人間が必要だからです。しかし、AIがこのプロセスのいくつかの側面で大きな助けとなることは間違いありません。AIは、このシステムの特定の面倒な部分を加速させ、しばしば試行錯誤を必要とする実験を自動化する足がかりを得始めています。材料探索の場合、AIがイノベーションパイプラインに役立つ可能性があるのは、材料特性の予測と材料合成の2つの主要分野です。
プロパティの予測
材料技術者は、新しい材料の候補がある場合、その候補が目的の用途に適しているかどうかを判断する必要があります。
そのためには、さまざまな物理的特性を把握する必要があります。
例えば、
- pHはどのくらいか?
- 他の材料と反応する温度は?
- 強度はどのくらいか?
- 結晶構造はどうなっているのか?
などの特性です。
そしてもちろん、最終的な用途に組み込まれたときに、実際にどのような効果が得られるかを予測することも重要です。例えば、電池の場合、
- 最終的なエネルギー貯蔵量はどのくらいか?
- どのくらいの速さで充電・放電できるのか?
- 劣化するまでに何回のサイクルに耐えられるか?
といったことを予測する必要があります。
これらの特性を予測するには、多くの場合、試行錯誤的な実験が必要ですが、他の既存材料のデータセットを使用することで、他の新規材料に一般化できる「人工ニューラルネットワークモデルの学習」が可能となり、マクロなレベルだけでなく、ミクロなレベルでも特性を予測することができます。
例えば、マクロなレベルでは、この材料のバルク構造をシュミレートして、最終転移温度、引張強度、融点、密度、粘度、エネルギー容量などを決定することができます。また、分子レベルでは、格子定数、バンドエネルギー、電子親和力など、半導体や電池の高速化や新規化学物質の開発に不可欠なミクロな特性を予測することができます。
材料の合成
また、AIを活用することで、新規材料をゼロから発見・提案することができます。例えば、どのような化学組成が化合物を形成しやすいかをフィルタリングすることで、元素プールから元素の組み合わせを推奨するシステムや、既存の材料のイオン置換を提示して新しい化合物を発見するシステムを開発することができます。また、これらのモデルを用いて新素材の結晶構造を予測することで、どのような分子が希望の結晶構造を持つ可能性があるのかをより正確に探ることができるようになります。新しい有機ELシステムの例では、より最適化された構造を開発するために、機械学習が非常に重要であることを示しています。また、AIはプロセスの最適化にも利用できます。例えば、金属製錬のような材料製造のプロセスを最適化することができます。このパイプラインには、鉱石の濃度分析、鉱石の処理、金属の分離の自動化など、AIを利用することで高速化できる重要なステップがいくつかあります。例えば、ある合金の加工パラメータがどのような機械的特性を持つかを予測できるモデルを開発すれば、この合金の機械的特性が最適になるように加工パラメータを最適化することができ、それによって製錬方法を改善することができます。さらに、これらのシステムの量子力学的なシミュレーションにも、AIの手法が大いに活用されています。分子レベルで材料を設計する際には、量子力学的特性が非常に重要であり、システムの正確な量子力学的記述が必要となります。これは、系の密度汎関数によって与えられますが、多くの場合、非常に退屈で大規模な計算であり、数値的に近似しなければなりません。また、非常に複雑なシステムでは失敗することもあります。しかし、密度関数の推定に機械学習を適用することで、より迅速に、より強固に、より高い精度で密度関数を予測することができるようになりました。
Author
共同創設者兼CEO
Tiago Ramalho
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンにて、理論/数理物理学 修士号、生物物理学 博士号を取得。卒業後、Google DeepMindに入社。シニアリサーチエンジニアとして、強化学習、予測モデル、自己管理型学習など、最先端プロジェクトに従事しNatureなどの国際雑誌に多数の論文を発表。その後、多国籍AIスタートアップ、コージェントラボにリードリサーチサイエンティストとして入社し、来日。情報検索&質問回答、デザイン生成モデル、OCR、NLP等、様々なプロジェクトを推進。2020年8月、株式会社Recursiveを共同創業し代表取締役に就任。