一貫したブランドイメージでの広告展開を実現:AIによる広告クリエイティブ生成システムの開発

クライアントの背景
KDDI株式会社(以下、KDDI)では、個人向けにはauブランドでモバイルおよび固定通信サービスを提供し、法人向けにはビジネスソリューションを展開しています。同社は生成AIを社会に実装する取り組みの一環として、AI開発に強みを持つスタートアップ企業との提携を通し、付加価値の創造を目指しています。
課題
オンライン広告を通じて自社サービスのプロモーションを行うKDDIでは、広告配信プラットフォームの最適化やユーザー行動に即した広告配信が不可欠です。同時に、広告クリエイティブにおいては、ロゴガイドラインやブランドカラー規定の遵守といった視覚的な要素に加え、ブランドの価値観に沿った表現へと統一することが求められています。適切な結果を得るためには、担当者自らの知見をもとに多大な時間と労力を投入することが求められるため、業務が属人化してしまう傾向にありました。
また、クリエイティブ制作の効率化を支援するサービスは存在するものの、広告配信実績データ(ファーストパーティデータ)の活用は依然として限定的でした。そのため、提案されたクリエイティブ案の採否はデザイナーやプランナーの経験に基づく判断に委ねられることが多く、客観的なデータに基づいた評価が不足していました。
Recursiveのソリューション
こうした課題を解決するため、RecursiveはKDDIと協力し、生成AIを活用した広告クリエイティブ生成システムを開発しました。本システムでは、「au VISUAL IDENTITY」の写真規定で定義された4つの付加価値(Clean、Friendly、Playful、Advanced)のいずれかを選択するだけで、KDDIのブランドガイドラインを遵守しつつ、選択した価値に合った画像を自動生成します。さらに、過去の広告配信によって蓄積されたデータを活用し、AIが広告効果を予測。KPI予測モデルにより選別された良質なバナー画像を選択することができます。
本システムは、画像生成とKPI予測という2つのAIモデルを統合したパイプラインで構築されており、データに基づいた効率的かつ効果的な広告クリエイティブの生成を実現します。
画像生成モデル
- 高品質な画像生成:最先端の拡散モデルを活用し、テキスト説明に基づいたリアルな人物画像を生成。日本市場に特化し、西洋のデータに偏りがちな着物やアニメ風デザインなどの不要な要素は排除
- ビジュアルアイデンティティのカスタマイズ:プロンプト内のキーワードを認識し、ライティング、コントラスト、色合いなどを自動調整。auブランドの4つのスタイルに最適化
- 自動プロンプト翻訳:モデルのAPIが英語入力のみをサポートしているため、LLM(大規模言語モデル)を活用した日英翻訳機能を組み込み、スムーズな運用を支援
- 画像編集機能:テキストから画像生成に加え、既存画像の特定要素(アクセサリー、服装、髪型など)を自在に変更・追加・削除も可能
- 処理速度の向上:非同期処理を活用したリクエストハンドラーを開発し、同時処理を効率化。多数のユーザーが利用する環境でも高速応答を維持
- 背景除去機能:広告バナー向けに、プロンプトに特定のキーワードを追加するだけで背景除去を自動実行。後編集の工数を大幅に削減

KPI予測モデル
- 高精度CTR(クリック率)予測:カスタムニューラルネットワークで、年齢・性別などの多様なオーディエンスに対するCTRを予測。データドリブンな意思決定を支援
- リアルタイム予測:広告配信前に効果を1秒以内に予測。配信前のパフォーマンス評価で、より確実な広告戦略を可能に
- 実績に基づく高精度:KDDIが提供するSNS広告の履歴データでモデルをトレーニング。CTR予測精度は72%を実現し、信頼性の高い広告運用を実現
- 優れたコスト効率:標準的なCPU環境で高速処理を実現。導入コストを抑えつつ、最大限のパフォーマンスを発揮

成果
本システムの導入により、広告制作における業務負荷の軽減と効果の向上が期待されています。
1. 業務負荷の軽減:KDDIでは本システムのβ版をテスト導入することにより、以下工程において50%の工数削減効果を確認しました。
- デザイン考案(平面構成、フォント選定、画像選定など)
- ラフ作成(背景作成、色彩決め、フォントと画像の配置・サイズ調整など)
- 仕上げ(シャドウなどのエフェクト、画像のレタッチなど)
2. CTR向上
- 広告クリエイティブは、AIによるパフォーマンス予測に基づいて選定されるため、各プラットフォームにおける広告効果を最大化
3. クリエイティブの拡張
- AIによる高品質な人物画像生成により、制作コストを抑えながら、より多彩な広告ビジュアルを展開。これにより、様々なスタイルやコンセプトを試行し、より魅力的な広告キャンペーンの実施が可能
お客様の声
「企業の課題を具体的なソリューションへと落とし込む際、Recursiveは情報工学の専門的な知識を持つエンジニアだけでなく、マーケティング・ビジネス観点も考慮に入れた視野の広い提案をいただきました。」
KDDI株式会社 ブランドコミュニケーション部 コミュニケーションデザイン部長 合澤智子様