AIを活用した降水量モデリングによる、水資源保全の高度化
クライアントの背景
ソフトドリンクからアルコール飲料まで、幅広い製品をグローバルに展開する飲料大手のサントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)は、「水と生きる」というメッセージのもと、水資源の保全に取り組んでいます。水を大切に使い、自然に還す。その水循環を深く理解し、持続可能な社会への貢献を目指す姿勢は、サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社での最先端研究に裏打ちされています。
課題
気候変動の影響により、世界各地で気象パターンが変動し、降水量の大幅な増減や降雨パターンの変化、地域的な偏りが顕著になっています。加えて、地域社会の過疎化により、水源涵養力の低下が懸念されており、近年では水資源の持続可能性に対するリスクが高まってきています。こうした状況の中、水循環を深く理解し、水資源を守りながら大切に使い、日々変化をモニタリングする重要性はより一層増しています。
水循環を理解する活動の一環としてサントリーが生産拠点を構える山岳地域が多くを占める流域においては、その複雑な地形によって精度の高い降水量予測を行うことが難しい状況にあります。既存の降水量推定に用いられている衛星データや地上にある気象観測所から得られるデータでは、山岳地域特有の地形が要因となって降水量が実際よりも少なく推定される傾向にあり、局所的な降水量の変動を捉えきれていませんでした。
サントリーが中長期にサステナビリティ活動を推進していくために、水循環シミュレーションモデルを活用した流域の水循環の可視化に取り組んでおり、そのモデル構築と高精度な水循環の理解には高精度に降水量データを取得し、利用することは不可欠でした。そのため、地形特性を詳細に反映した高解像度降水量モデルの導入が強く求められていました。今回、高解像度降水量モデルの導入のために日本の長野県とスペインのセゴビア地域を対象に技術開発に取り組みました。

Recursive のチームがサントリーの工場を訪問
Recursive のソリューション
山岳地帯の地形データが降水量予測に不可欠であることを踏まえ、Recursiveはその詳細な情報を反映する技術開発に注力してきました。その結果、従来の衛星データや気象観測所のデータでは困難であった局所的な降水量の変動を、1平方km単位、1時間単位という高解像度で予測するAIソリューションを開発しました。このシステムは、既存データセットとの比較では28倍の解像度で情報を提供します。
本システムでは、低解像度の降水量データ、地形情報、および風向・風速などの気象要素を統合的に利用しています。これらの入力データを用いることで、広範囲な気象パターンを物理学の観点からも正確に表現し、AIによって精密な降水量推定を行うことが可能となります。
主に 2 つの要素で構成されています。
- 測定モデル:日本とスペインにおける地域特性を考慮し、降水量データを補正します。具体的には、標高、風、季節変動といった要因に起因する地域的なばらつきを修正します。
- アップサンプラーモデル:AI を用いて、高解像度の降水量マップを生成します。このモデルは、単なる平均化処理による予測ではなく、地形や風況といった条件に応じて降水量がどのように変化するかを学習し、物理の法則に基づいた制約を加えることで、現実的で一貫性のある降水量分布を推定します。

結果
- 日本とスペイン両方の山岳地域において過去20年分の時間単位の降水量マップを生成
- 1平方km単位での予測が可能となり、既存のデータセットより28倍向上
- 降水量推定の精度も従来手法との比較では大幅に改善
- 本システムは汎用性が高く、高精度な水資源データを必要とするあらゆる場所において、拡張性のある降水量モデリングツールとして活用可能
お客様の声
『水と生きる』を使命とするサントリーは、気候変動や地域社会の過疎化が水循環に及ぼす影響を把握することが不可欠だと考えています。RecursiveのAIソリューションは、高解像度かつ局所的な降雨予測シミュレーションを可能にし、より高度な水循環理解と将来世代のための水資源保全に向けた取り組みに貢献してくれました。本プロジェクトを通じて、水資源管理におけるAIモデル活用の有用性が示されたと感じています。
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 水科学研究所 栗原 俊 様