AIが果たす持続可能な林業における役割
クライアントの背景
株式会社NeXT FORESTは、株式会社IHIと住友林業株式会社の合弁会社であり、インドネシア・西カリマンタン州を中心に、熱帯泥炭地の持続可能な管理を目的に設立されました。
熱帯泥炭地は、地球上で最も効率的な炭素吸収源の一つであり、その土壌には世界の森林全体の2倍もの炭素が貯蔵されています。巨大な樹木を育み、熱帯雨林を形成するだけでなく、多様な生態を支え、絶対危惧種であるオランウータンをはじめとする多くの生物の生息地となっています。
課題
熱帯泥炭地は、人為的な活動や気候変動に対して非常に脆弱であり、安定を保つには特定の環境条件、特に適切な地下水位の意地が不可欠です。地下水位が過度に低下すると、泥炭地は乾燥し、非常に燃えやすくなり、森林火災が発生しやすくなります。森林火災は、泥炭地に蓄積された大量の炭素を大気中に放出します。さらに、乾燥した状態では泥炭の分解が進み、CO₂排出量が増加し、気候変動を加速させます。
2015年には、インドネシアで発生した森林火災により、260万ヘクタールの森林が焼失し、約13億トンのCO₂が大気中に放出されました。これは、多くの国の年間排出量を超える量であり、地球規模の環境災害となりました。
従来、泥炭地の水位管理は、熟練技術者が手作業で土地を測量し、50cm間隔で詳細な地形図や等高線図を作成していました。この労力を要する作業には、完了までに最大5年かかることがあります。
Recursiveのソリューション
Recursiveは、この課題に対処するため、住友林業が西カリマンタンの森林で10年以上にわたり収集した地下水データを利用しました。このデータと、地形、植生、水路、気象条件に関する専門の知識を組み合わせることで、ゼロから完全にカスタムのAIモデルを開発しました。このモデルは、機械学習と物理方程式を統合し、地域の高精度なメッシュマップを作成し、地下水位を7日先、6cmの精度で正確に予測します。
このモデルは、地下水位が潜在的な危険に関連する閾値に達するタイミングを予測するように設計されており、ステークホルダーは迅速に予防措置を講じることができます。これにより、泥炭地の劣化を軽減し、森林火災のリスクを低減するのに役立ちます。

初期開発段階の後、Recursiveのエンジニアリングチームは、AIモデルをさらに強化するためにインドネシアの西カリマンタンを訪問しました。灌漑システムを運用するエンジニアや作業員からの現地での観察と直接的なフィードバックは、ソリューションの改良に重要な役割を果たしました。
この訪問により、Recursiveのチームは、標高に基づく土壌品質のばらつき、ダムの種類に関するデータ、水の流れのダイナミクスなど、これまで利用できなかった、または不完全だった追加のパラメータを組み込むことができます。今後の開発段階では、これらの改善により、このソリューションがお客様のニーズを満たすために進化し続けることが保証されます。この訪問の詳細については、こちらのブログ記事をご覧ください。

Recursiveのチームがインドネシア・西カリマンタンで地下水位測定に向け、準備する様子
成果
RecursiveのAIを活用した地下水管理ソリューションは、以下のような具体的な成果をもたらしました。
- 1,200 km² に及ぶ熱帯泥炭地を効率的に監視・管理を実施し、劣化リスクを軽減
- 約 3億トン のCO₂排出を抑制し、気候変動飽和に大きく貢献
- 作業効率が大幅に向上し、時間のかかる手作業による調査への依存を軽減、従業員の負担を軽減
- AIシミュレーションにより、ダムの配置と灌漑計画を最適化し、より優れた資源管理と持続可能な水利用を実現
お客様の声
「Recursiveは豊富な実績と優れた技術者を擁しています。工学的な視点に加え、生物物理学の知識を有していることは、非常に大きな強みであり、大きな安心材料だと感じました。」
住友林業株式会社 資源環境事業本部 理事・副本部長 加藤 剛様