Beyond EXPO 2023 in Macauイベントレポート
AI2023-05-22
こんにちは、ウジョンです。 前回の初投稿の後、多くの方から良いフィードバックをいただき、ありがとうございました!今回、Beyond EXPO 2023 in Macauのイベントレポート第2弾を書きましたので、引き続きフィードバックいただけると嬉しいです。 5/10-5/12に開催されたBeyond EXPO 2023 in Macau。ヘルスケアやサステナビリティ領域にて最先端の技術を開発する多くの東・東南アジア企業が展示するこのイベントにて、弊社CEOのTiago Ramalho(ティアゴ・ラマル)が「How is AI Shaping the Southeast Asia's Next Gen? [AIは東南アジアの次世代にどのような影響を与えているのか?]」というトピックにてモデレーターとして登壇しました。
Large Language Model (大規模言語モデル、以下LLM)の革新的成長が日々メディアを賑やかす反面、社会的実装には多くの課題もあります。「AIが効果的に社会課題を解決している」、そんなビジョンを近い未来に実現するには、各国・地域がそれぞれの事情に合った実装を進める必要があります。例えば、東南アジアは東アジアに比べるとDXが遅れています。しかし、だからこそ最初からAIを導入することによって、地域のDXを革新的に加速させる可能性が大いにあり、Recursiveとしても注目しています。登壇内容を元に東南アジアの特徴と東南アジアでのAIの可能性についてまとめました。
東南アジアの言語的特徴とAI開発への影響
AI開発、特にLLM開発における東南アジアの一番の特徴は「多言語」ということです。東南アジア人口の大半は日常的に英語で会話できる能力を持っている一方で、英語以外にも、各国、各民族にて独自の言語を使っています。 従来、Google等の既存のテック企業はソフトウェアやAIを英語で開発する為、他言語の国でプロダクトをローンチする際に、ローカライゼーションに手こずっていました。AIについても同じような開発上の課題が残るのか、という論点がありますが、結論から言うと大きな問題にはならないはずです。 東南アジアのスタートアップやテック企業の「言語」に対する理解度は既にハイレベルであり、ローカリゼーションの壁は低いでしょう。Natural Language Processing(自然言語処理)や音声認識技術等に加えて、ニュアンスやイントネーション等の各単語の意味以外でコミュニケーションを左右する言語要素への理解も高く、LLMを開発する上で大事な土台は整っていると言えるでしょう。 更に、企業戦略の観点からしても、カスタマーエンゲージメント等にLLMは大きく活用できる為、技術の普及速度は他地域と引けを取らないでしょう。
東南アジアでAIを導入する上での社会的課題
上記の通り、東南アジアのAI開発・実装は大きな成長ポテンシャルを秘める一方で、AIの普及を遅らせかねない社会的課題もいくつかあります。
1. 政府や自治体などからの支援制度が整っていない
東南アジアのマーケットポテンシャルは東南アジア10カ国が合わさった時に最大限発揮されます。しかし、まだ東南アジア10カ国の内の半分以下が国としてのAI戦略を発表しておらず、共同的に動けていません。発表している国は、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、と10カ国の中でも経済成長が先発している国々だけで、それ以外の国々が追いつくには時間が掛かると思われます。また、シンガポールを除く国では、政府、企業、国民の間の信頼度が低い国もあり、AI導入に必要なインフラやデータ制度が整っていない国も多く見られ、AI導入のハードルを上げかねません。
2. データの提供に関する不信が根強い
繰り返しにはなりますが、データ利用に関する法制度が整っていない為、データ提供に関して企業や国民の不信感が高い傾向にあります。その為、AI開発に必要なデータが蓄積されにくいことがAI普及の課題となっています。
3. AIに関する教育が普及していない
AIが普及する為には、AIとは何なのか、その活用方法やリスクに関してある程度のことを国民が理解する必要があります。そして東南アジアでは、まだAIへの認識が他地域に比べて低いため、エンジニアやプロダクト人材を探すことが課題になり得ます。東南アジア発のスタートアップは、海外(主に中国)から人材を見つけてくることで現状はやりくりしていることが多く、国全体のAIリテラシーが低いことは今後の成長において大きな課題となるでしょう。
技術的な知識だけではなく、自分の周りでどうAIが活用されて、自分のデータがどこにどう利用されているのか等を早い時期から学び、関心を持てるかは、東南アジアのAI人材開発に大きく影響するでしょう。テクノロジーの発展と共に労働者に要求されるリスキリングへの制度的支援も必要になるでしょう。
公平的なAIとは
東南アジアの課題をピックアップしてきましたが、東南アジアから日本が学べることもあります。現状、日本ではメディアでAIについても騒いても、まだ自分とは遠い話と感じる人が多いです。AIコンサルタントの仕事をしていても「弊社でAIが使えるとは思っていなかった」との話も伺います。AIの社会実装が発展途上にある日本の一つの指標となり得る事例がシンガポールでです。
シンガポールのAIの社会実装の事例から、「良いAI」は大きく4点の特徴を持っていると言えます。①社会の為になる、②透明性がある、③全ての人に平等に提供される、④そのAIが何なのか、何をしているのか、どう作られているのか説明が可能、という4点です。
無論、550万人という比較的少ない人口でAIを実装することの難易度と、1億人の人口の国で実装することの難易度は異なります。しかし、良いAIの条件となる点は変わらないないでしょう。AI導入する上では、社会的変化、インフラ整備、制度的保障及び支援等、日本もまだ多くの取り組みが必要ですが、シンガポールのような先進事例から学びながら、方向性を間違えなければ、誰もが幸せに暮らせる社会とAI実装にたどり着けるのではないでしょうか。
後書き
去年に引き続き、国内でのAIユースケースが蓄積してきていることから、今年からRecursiveでは海外進出に向けて動いており、国内外の様々な場での登壇したり、ブース出したり等イベントに力を入れています。もし何か良い機会があれば是非誘っていただけると嬉しいです。
注釈)この記事はイベントの内容をもとに構成されています。
Author
Business Development Manager
Woojung Kim
UCLAを卒業後、PwCに入社。金融機関向けDXプロジェクトに従事した後、ベンチャーキャピタルであるPlug and Play Japanの大阪オフィス立ち上げに参画。アクセラレータを通じて、大手企業のオープンイノベーション、スタートアップの起業・戦略策定を支援。その後、株式会社Recursiveに入社し、AIのコンサルタントとして入社。